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「情報」に踊らされる政治・行政(第1回社会情報学シンポジウム「社会情報学の構図」)

フォーマット:
論文
責任表示:
稲葉, 清毅
言語:
日本語
出版情報:
群馬大学社会情報学部, 1998-03-20
著者名:
稲葉, 清毅  
掲載情報:
群馬大学社会情報学部研究論集
ISSN:
1346-8812  CiNii Research  Webcat Plus  JAIRO
巻:
5
開始ページ:
231
終了ページ:
233
バージョン:
VoR
概要:
application/pdf<br />Departmental Bulletin Paper<br />1936年生まれの私は、これまで世の中の価値観の大きな変動に二度巡り会いました。初めは第二次大戦の敗戦に伴う激動で丸この時私たちは毎日慣れ親しんできた教科書に墨を塗ることによって、日本が選ばれた神の国であるという虚構を捨て、欧米的な価値観を受け入れました。その次は国論を二分した左翼的理想主義に対する反省です。戦後の日本は,政治的には西側陣営の一員 として一途に経済成長をめざしてきましたが、思想・言論の上ではいわゆる進歩的文化人をリーダーとして、社会主義への憧れを基盤に市場経済体制の矛盾を指摘する立場から、ひたすら体制を批判する論調が主流となってきました。ソ連等の社会主義陣営の腐敗と自壊によって、そうした世界への憧れも色あせ、今日では経済的には市場メカニズム、政治的には民主主義に全幅の信頼をおかれているように見えます。しかし、このように激しく変化する時代の風潮にもかかわらず、常に時流に乗って国民をリードしてきたのはマスコミです。そして、彼らの影響の下に国民の意識や主義主張は大きく変わって来ましたが、その底に横たわる深層心理や行動原理はあまり変わっていないように見えます。ここから、話はぐっと小さくなりますが、今度は、私の後半の30年の社会体験から、マスコミのニュースというものがどのように作られ、どのように政治や行政に影響を与えて来たか、いいかえれば政治や行政がマスコミの活字にどのように躍らされてきたかを振り返ってみましょう。そして、その上で新聞の読み方というものを、中身が単純で分かりやすい競馬の予想新聞と比較しながら、お話して見たいと考えています。たとえば、行革に大きな影響を及ぼした第二次臨時行政調査会は、別名土光臨調といわれるように、経団連会長だった土光敏夫さんの影響が強かったのですが、土光さんが比較的簡単にこの難しいポストを引き受けられた裏には、会計検査報告を巡る大新聞の虚報があります。また、私が臨時行政調査会事務局に勤務していた際も、自分自身が関係していた特殊法人の整理合理化を巡って、大小様々な虚報が飛び交うのを目の当たりにしました。そして、そのようなニュースがどのように作られるかのメカニズムを理解する、つまりどのようなリークをすれば、どのような記事になるかを知ってからは、その習性を逆用し、自分では嘘をつくことなく、オーバーな見出しの記事を書いてもらうことに成功したこともあります。このような経験を踏まえてみると、新聞の記事には、その新聞社の政策が、世間の風潮に迎合することを含めて色濃く反映している、特に大きな見出しがつけられる記事ほどその傾向が強いことがわかります。これに対していわゆるベタ記事は,少なくとも何らかの事実を基盤にしていることが多く、地味ではあっても情報価値が高いものが含まれています。これは、ちょうど競馬新聞などで、大見出しになっている記事は、世間の風潮への迎合か受けをねらったハッタリである場合が多く、馬券を買う立場から見るとあまり参考にならないことが多いのに対し、小さな署名記事の中にはキラリと光るヒントが隠されていることと良く似ています。問題は、競馬の素人が予想紙の見出しをそのまま信じてしまうように、一般大衆が大新聞の見出しをそのまま事実、真実と誤認してしまうことです。鬼畜米英・神国日本といった戦前の風潮、社会主義賛美・体制批判を基調とする戦後の風潮が、いずれも大新聞の政策的主張にリードされていたことをもう一度思い出す必要がありますし、そういう観点から見れば、今日、時流に乗っている、市場経済体制と民主主義の無条件な礼讚についても、改めて批判の目を向ける必要があると思います。社会情報学部は、情報化の進展を背景に、社会と情報との関係を追求して行くために誕生した学部ですが、このような矛盾を直視し、社会的意志決定のメカニズムやそのうちに潜むカラクリを明らかにすることによって、より現実的な社会システムの実現に寄与するという役割を負っていると考えています。いまこそ社会情報学部の出番です。 続きを見る
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